動機づけについて考える

人を行動に駆り立てるエネルギーの源泉は、突き詰めると「苦痛からの逃避」と「快楽の追求」が二大要素だと言われます。苦痛とは、怒り、恐怖、不安、ストレスなど負の感情です。「これを失敗すると怒られる」「ノルマが未達だと叱責される」「この体重のままではまずい」などの苦痛が待ち受けていれば、私たちはそれを回避するために動こうとします。一方、快楽とは、愛情、正義、刺激、信頼など正の感情です。「これを達成できればこんなご褒美が待っている」と自分が求める快楽を認識した時に、私たちはそれを得るために動こうとします。

ここで注意すべきは、苦痛からの逃避のみが行動の動機になっている場合、その苦痛が和らぐと行動しなくなることです。「大学受験に失敗したら大変だ=恐怖」という苦痛から逃れるためだけに受験勉強していたならば合格した途端勉強しなくなるかもしれません。ダイエットでせっかくやせた後維持できずリバウンドするのは、痛みが消えて続ける気がなくなるからでしょう。

また、簡単に得られる快楽に到達して満足すると、そこで行動が止まりかねない点にも注意が必要です。ちょっとした贅沢品やわずかな成功を手にすることが自分にとっての最終目標であるかのような設定をしてしまうと、「この状態が心地よい状態」と感じる安楽の作用(Good)により、やはり行動しなくなりがちです。

ですので、私たちは、
・苦痛からの逃避は強い行動エネルギーをもたらす。しかし、行動の原動力に苦痛を使うのは限られた期間にとどめる
・長期間かけて追い求めたい大きな快楽の追求(Great)を認識し、次の原動力に充てる
べきだと言えるのではないでしょうか。

これまでの経験を振り返ってみると、業績を伸ばしている、組織がよい状態で動いている企業様は共通して、経営者を中心としたリーダー層が「大きな快楽の欲求」を継続して持てているように感じます。それは、短期的な小さな快楽や個人都合の「こうなりたい」といった願望ではなく、長期的・社会的な視座からの「この商品・サービスを通してお客様・社会にこんな貢献ができるのが無上の喜びだ」という快楽です。

学校教育や家庭内教育では、主に「苦痛からの逃避」の観点から、子供に行動させようと諭す場面が多いように見受けられます。宿題しないと先生に叱られるよ、そんなことをしたら恥をかくよ、だから叱られずに済むように頑張ろう、周囲をわきまえて行動しよう、という教育です。子供のうちは主に苦痛を行動の原動力にすることを覚えるのが適切なのかもしれませんが、いずれは大きな快楽を行動の原動力にできるようになるべきではないでしょうか。そのためには、良書や尊敬すべき他者から学んだり、自分と向き合い反省・内省したりすることを通して、良い欲の持ち方を意識的に習慣化する必要があるでしょう。「自分のやりがいはこの事業でこれを成し遂げてこんな貢献をすることだ」のようなイメージで、自分の存在意義と仕事がよい形で関連付き大きな快楽と認識できたときに、強力で持続的な行動エネルギーが生み出されると考えます。

【藤本 正雄(ふじもと まさお) 】
株式会社小宮コンサルタンツ コンサルティング事業部 チーフコンサルタント
立命館大学産業社会学部卒業。豪州ボンド大学経営学修士課程卒業(MBA)。人材育成専門機関、事業会社の人事部門、組織人事コンサルティング会社(最優秀社員賞を受賞)を経て現職。人・組織に関するテーマを中心に、経営戦略や組織戦略・事業計画の策定・実行支援、事業承継支援、各種プロジェクト・研修等に携わる。産業カウンセラーとして経営者個人や社員へのコーチ等個別支援も行う。 ■担当分野 経営戦略、人事戦略、各種人材マネジメント支援(採用、人事制度、労務管理、キャリア開発、メンタルヘルス等)、テーマ別スキル育成

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