仕事を「選ぶ」ということ

以前、あるベンチャー企業の役員Aさんとお会いし、昨今話題の「働き方」について話題になった時の話です。Aさんは、何と言っても強力なエネルギーの持ち主で、いわゆる長時間労働も厭わない人物です。そんなAさんでも、過去には耐えられない職場環境があり、会社を辞した経験もあります。
Aさんと、何が個人にとって望ましい仕事環境/望ましくない仕事環境を分けるのかという話になり、望ましい状態は下記3つが満たされていることではないかという結論に行きつきました。
1.その仕事に自分なりの目的を見出せている
2.その仕事を自分が選んだ結果としてやっている
3.その仕事にパワハラ管理(や他のハラスメント)が存在しない
労働時間自体は主要因ではないということです(もちろん、適切な時間管理は必要ですが)。
私たちは趣味や好きなことに没頭する時、時間の長さを気にしません。仕事ではなぜ気になるのかというと、上記1.2.3.のいずれかあるいは複数が満たされていないからではないでしょうか。
2.については、1.3.より実現が難しいかもしれません。会社組織である以上、マネジメントの要請に従い指示命令によって仕事を行うことが基本的な構図となるからです。「自分で選ぶ」は、完全には成立しえないようにも思われます。
この点については、必ずしも2.が「数ある仕事メニューの中から、自分発で選んだ」でなくてもよいでしょう。例えば、「予期せず部長から振られた仕事として担当しているが、この仕事をやることに肯定的に納得している」状態でも当てはまるというわけです。つまりは、下記のような状態です。
・その気になれば退職し、別の仕事に就くこともできる。
・この担当業務が自分のキャリアにどの程度プラスになるかよくわからない。他の部署に異動希望も出せる。けれども、
・今、ここで、この担当業務をやるのはありではないかと、自分なりに納得できている。だから、他の選択肢は選ばず、この担当業務を続けることを選んでいる。
スタンフォード大学のクランボルツ教授は、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な出来事によって決まる」と指摘します。変化の激しい時代において、あらかじめキャリアのすべてを計画するのは無理がある。自分が何をしたいかの意思決定にこだわってひとつだけの仕事を選びとることは、それ以外の可能性を捨ててしまうことにもつながる、という考え方のようです。
組織活動を営む以上、担当する個々の仕事の選択には限界もあるでしょう。その上で同教授の示唆を手がかりにすると、純粋な自分発の選択だけではなく、「これもやってみないか」と組織が推奨してきた仕事(偶発的な出来事)に肯定的に取り組むことも、キャリアづくりでは重要だと思うわけです。こうした出来事から有意義な経験を得られることが、フリーランスが広がる中でも、組織に所属し社員として仕事をする意義のひとつだとも思います。
後付けであっても、社員が「自分で選んだ」と思えるような働きかけをする。これも、マネジメントにおいては腕の見せ所のひとつと言えるのではないでしょうか。

【藤本 正雄(ふじもと まさお) 】株式会社小宮コンサルタンツ コンサルティング事業部 チーフコンサルタント。 立命館大学産業社会学部卒業。豪州ボンド大学経営学修士課程卒業(MBA)。人材育成専門機関、事業会社の人事部門、組織人事コンサルティング会社(最優秀社員賞を受賞)を経て現職。人・組織に関するテーマを中心に、経営戦略や組織戦略・事業計画の策定・実行支援、事業承継支援、各種プロジェクト・研修等に携わる。産業カウンセラーとして経営者個人や社員へのコーチ等個別支援も行う。
■担当分野 経営戦略、人事戦略、各種人材マネジメント支援(採用、人事制度、労務管理、キャリア開発、メンタルヘルス等)、テーマ別スキル育成

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