感動の味

山梨県の郷土料理に「ほうとう」があります。小麦粉を練った麺を、味噌仕立ての汁で煮込んだものです。野菜類と一緒にかぼちゃが入るのが特徴で、少しだけとろみがあります。山梨に行くと必ず食べる大好物です。

初めて「ほうとう」を食べたのは、もう20年以上前。山梨県大月市の観光名所で、「日本三奇橋」のひとつに数えられる猿橋。この橋の袂に立つ古い食堂のようなお店で偶然食べたのが、ほうとうとの出会いです。この時に食べたほうとうが感動的に美味しくて、すっかり大好物になりました。以来、山梨に行くたびに、いろいろなお店で食べたのですが、このお店ほど美味しいほうとうには今も出会えていません。もしかしたら記憶の中で、どんどん思い出の味が美化され、感動が強化されているのかもしれない、とも思っていました。

ところが先日、ふとしたことで知ったのですが、観光名所に立つ古い食堂のようなあのお店は、実は大黒屋さんというとても歴史あるお店だったのです。その昔は旅館を営んでいて、国定忠治の定宿だったことから、『忠治そば』と名付けられた名物もあるとか。また後に日立製作所の創業者になる小平浪平氏が渋沢元治氏とここに宿泊し、日立製作所創業への想いを語り合った、いわば創業に繋がる記念の場所でもあるそうです。観光地の古い食堂など、大変失礼な呼び方をしてしまいましたが、実は歴史を見つめてきた老舗だったのです。

そう知ると、いよいよあの大黒屋さんのほうとうは、特別な味だったに違いないと思えてきます。大月市に立ち寄る機会はあまりないのですが、いつかもう一度、あのほうとうを味わって確認したいものです。

【井出 元子】

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