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危機に慣れてしまう危険

北朝鮮問題がこのところ緊迫度を増しましたが、皆さんは少しこれに慣れてきていませんか。危機への慣れは禁物だと私は思っています。皆さんもご存知のように、北朝鮮問題は、かなり以前から、緊張と緩和を繰り返しています。核開発を進める北朝鮮に対し米国は圧力を強め、それに対し、北朝鮮はギリギリのところで妥協するということを繰り返しているのです。随分以前にも、核開発を進める北朝鮮に米国のカーター元大統領が訪問し、核開発を断念させたということがありました。

日本も北朝鮮の核やロケット開発の脅威にさらされていますが、今回も何とかおさまるだろうと考えがちです。私ももちろん、何とかなることを願っていますが、しかし、こういう状況に慣れてしまうのは、とても危険なことだとも感じています。適切な対策を取らなくなるからです。何も起こらないことはとても大切なことですが、だからと言って危機やその可能性に対して対策を取らないことは間違いなのです。

 

もうひとつ、慣れっこになっている危機があります。あまりにも慣れてしまっていて、多くの人が危機とも思っていないことに私は強い懸念を感じています。それは、日本の財政の状況や日銀の緩和策です。ここでは日銀の緩和策を検討してみましょう。もう「異次元緩和」という言葉さえ、多くの人が忘れてしまっていると思います。

少し、振り返ってみましょう。2012年暮れの総選挙で当時の民主党が大敗し、自民党政権が復活しました。第2次安倍内閣です。翌年の2013年から本格稼働し、4月には黒田新総裁のもと、「異次元緩和」とまで呼ばれた空前の金融緩和策が日銀により実行されたのです。中心の政策となったのは、市中にある国債 を日銀が買い上げて、その資金を「日銀当座預金」という金融機関が日銀に持つ 口座に振り込み、市中にお金をじゃぶじゃぶにつけるというオペレーションです。
当初50兆円だった日銀当座預金は、今では350兆円を超えるところにまで増 加しています。その分、日銀が保有する国債は急増し、以前から保有していた分もありますから、今ではその残高は420兆円を超える水準となっています。日本の国債の半分近くを日銀が保有しているという状況です。そして、今でも毎年80兆円ずつ日銀は国債を買い上げています。極めて異常な状態が続いているの です。

日銀が国債を買うので、金利は低い状態が続いていますが、いつまでもこれを続けることは不可能でしょう。金融市場がいびつになっており、金利上昇に関して日銀が持つリスクが肥大化しています。いびつになったものは必ず元に戻ろうと
する力が働きますがそのときは日銀が大きな含み損を抱え、金融市場の大混乱を招くリスクがあります。

すでに米国では金利が上昇し始めました。日本でも、消費者物価全般が上昇基調となっています。それは、昨年夏には101円まで上昇した円が、その後円安に振れたこと、原油価格が1バレル50ドル程度に上昇し安定していること、人手不足などでサービス業中心に物価が上がりつつあることなどが原因です。日銀が国債買い上げで金利を抑え続けるのにも限界が見え始めています。早いうちの出口戦略が必要なのです。米国では、リーマンショック後に緩和策を用いましたが、今では徐々に出口に向かいつつあります。

私は、若いころに銀行員としてバブルの時代を経験しています。多くの人が、熱狂して、そして、これが続くという幻想を持っていました。しかし、結果はご存知のように、バブル崩壊とそれに続く金融危機にその後10数年悩まされました。
その後も経済は伸び悩んだままです。日銀の政策も、徐々に出口を模索する時期ですが、現状に甘えて、全く対策を打っていません。私から見れば危なっかしくて仕方ありません。

企業でも、問題点を抱えていても、なかなか抜本的な手を打てないものです。経営コンサルタントをしていて、そして10人ほどの小さな会社を長く経営していて思うことです。経営が安定しているときはいいのですが、少し環境が変わると問題点が大きく前面に出て一気に危機ともなりかねません。危ない状況に慣れることには、注意が必要なのです。

【小宮 一慶】

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