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一歩踏み込むということ

最近、感動したことがありました。当社の事務所は、東京の千代田区二番町というところにあります。すぐ近くに、セブン&アイホールディングスの大きな本社があり、そこにファミリーレストランのデニーズが併設されています。セブン&アイの本社とそのデニーズとは2階でつながっています。当社の事務所からは歩いて2分ほどのところにあるので、私はよくスタッフや気の置けないお客さまとそこにお昼ご飯を食べに行きます。

そのデニーズで、私は、セブン&アイの創業者で名誉会長の伊藤雅敏さんを何度も見かけました。当社の事務所が今の場所に移ってからもう7年近く経ちますが、それこそ何度もお見掛けしました。最初の頃は、伊藤さんは一般のお客さまと一緒に外の出入り口から入り、2階にメインフロアのあるお店なのですが、杖をついて階段を上がってこられていました。私たちとすれ違うと、愛想よく挨拶をしていただくこともありました。売上高6兆円もの会社の創業者・名誉会長ですから、デニーズのものを食べたければ、秘書に言えば、中で建物がつながっているということもあり、すぐに名誉会長室にまでもって来るはずですが、やはり、お店でなければ、その雰囲気やお客さまの反応、店員の態度などは分かりません。さすがに一代で日本有数の企業を築く方は違うなといつも感心して見ていたのです。やはり、事を成す人というのは、一歩の踏み込みが違うのです。

しかし、ここ数か月は伊藤さんをあまりお見掛けしていませんでした。何せ94歳だと思いますが、かなりのご高齢なので少し心配していました。それが、つい先日、デニーズで久しぶりにお見掛けしたのです。2階から入ってこられたようなのですが、私はその姿を見て感動しました。普段通り、きちんとスーツを着ておられましたが、なんと、歩行器を押して入ってこられたのです。そこまでしてでも、やはり、お店に出たいということなのでしょう。感動したとともに、ある種の執念を感じました。
高齢の名誉会長が、併設しているからとはいえ、デニーズのお店に出ることを期待している人は少ないでしょう。しかし、どんな場合にも「一歩踏み込む」ということをおやりになりたいのだと思います。やらなくても構わないことまでもやるということです。そういう人こそが、やはりことを成し遂げる人なのではないかと思います。

多くの人は、ある程度の地位やお金を得ると、必死さや一歩の踏み込みを忘れます。それをしなくても暮らしていけるからです。「GoodはGreatの敵」という『ビジョナリーカンパニー②』(J.C.コリンズ著、日経BP社)の冒頭の言葉を私は好きですが、多くの人がGoodの状態であるがゆえに一歩踏み込まなくなります。会社も同じです。私も自分にときどき自分に「GoodはGreatの敵」と言い聞かせていますが、どんなときでも一歩踏み込んで生きたいものですね。

【小宮 一慶(こみや かずよし) 】
経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問、名古屋大学客員教授。
フィールドでの実践をもとに、企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年百回以上の講演を行う。新聞・雑誌、テレビ等の執筆・出演も数多くこなす。著書130冊超、累計発行部数350万部以上。

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