Japan is cheap

この言葉は、「日本は安い」という意味ですが、私の昔からの知り合いであり、当社が8月に開催した新潮流セミナーでもお話しいただいた著名な日本人の株式投資家の方がおっしゃっていたものです。日本はここ20数年、企業などが国内で生み出す付加価値(売上高-仕入れ)の合計である名目GDPが全く伸びず、物価などが諸外国に比べてとても安いのです。日本では500円くらいあれば、牛丼やお弁当などそこそこ満足できる昼ご飯を食べられますが、欧米で5ドルや5ユーロ程度でまともな昼ご飯を食べられるということはまずありません。まさに「Japan is cheap」です。それに呼応して株価も長らく安く放置されている企業が少なくないとその投資家の方はおっしゃるのです。



私は、このお話を聞いてとても興味深かったのですが、その際に、実は優秀な人材もとても安いのではないかと考えました。(ちなみに、先ほどのGDPの停滞にともない、ひとりあたり給与のピークは約20年前の1997年という信じられない状況です。)日本では、1億円以上取っている上場会社の経営者や役員が開示されていますが、毎年500人程度です。一方、アメリカでは1億ドルを取る経営者もいます。ソフトバンクを辞めた外国人副社長の高給が話題になりましたが、150億円以上の報酬を得ていたとのことでした。

同様に、経営者だけでなく、実は一般企業に勤める優秀なビジネスパーソンの給与も、欧米に比べれば非常に安いのです。私は、米国のビジネススクール(ダートマス大学タック経営大学院)を30年前に卒業し、今では同校のアジア地区アドバイザリーボードメンバーをしています。数年前に学校側からあった説明では、授業料が1年で7万ドル近くに上昇しているというのです。2年制の大学院ですからその倍の学費がトータルでかかります。もちろんそれ以外に生活費もかかりますから、卒業までには最低でも2千万円くらいの費用がかかります。多くの学生はローン(MBAローン)を組むなどして資金をねん出します。

しかし、無事卒業さえできれば、それはすぐに取り戻せるのです。実は、卒業生の卒業後3年目の平均サラリーは18万5千ドル(約1900万円)なのです。これは優秀な人だけの数字ではなく平均です。卒業後3年ということは、だいたい30歳前後でこのレベルですから、それ以降もっと稼ぐ人ももちろん大勢います。中には億円単位で稼ぐ人も少なからず出てくるのです。

一方、日本では、一流大学を優秀な成績で卒業し、一流企業に入り順調に出世して部長レベルにまでなって、ようやく先ほどのビジネススクール卒業後3年目程度の給与です。それも、かなり給与の良い会社ではないでしょうか。

そういう意味で、日本の人材は、とても「安く」雇えると私は思っているのです。もちろん、先に説明した名目GDPの6割程度が働く人に分配されていることを考えれば、GDPが伸びないので、20数年間給与が伸びていないというのはマクロ経済的には納得できる説明ですが、やはり、この状況では優秀な人材が海外に流出することが心配です。

日本企業は、優秀な人材をとても安く雇用しているという認識が必要で、その人たちを活かし、もっと業績や生産性を上げようとすることが大切です。

いずれにしても、日本経済が成長しないのが一番の問題だと私は考えています。そのためにも、アベノミクスは金融緩和や財政出動のようなカンフル剤だけでなく、本物の「成長戦略」が必要なことは言うまでもありません。                         【小宮 一慶】

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