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お辞儀から滲み出るもの

「あの人が秘書の方ですよね。お辞儀の仕方で分かります。」

今お帰りになったお客さまが、帰りがけにそうおっしゃっていましたよと、対応した同僚が私に教えてくれました。

弊社では、お客さまがお帰りになる際、社内にいる全員が立ち上がって、「ありがとうございました」とお見送りの挨拶をしています。その様子をご覧になっただけでこのようにおっしゃったのですから、改めてお辞儀の大切さに身の引き締まる思いがしました。

相手に対する感謝の気持ち、お詫びの心を込めて頭を下げるという動作は、相手を敬う気持ち、謙虚な心を、言葉で語らずとも身体だけで表現するものです。私達日本人は、子どもの頃から自然に、相手に頭を下げる動作を目にし、躾けられてきました。

しかしながら、美しいお辞儀が自然にできるまで身につけるためには、正しいお辞儀の仕方を学び、練習し、日々実践することが欠かせません。そして、傲慢な気持ちがあると、素直に頭を下げることができません。だからこそ、お辞儀ひとつに、その人の人柄まで滲ませるのでしょう。


先日、ある自動車販売店さんの前を通りかかりました。
お車で来店されたお客さまがお帰りになるところで、男性スタッフの方が、お車を出口へと誘導し、お見送りされていました。

お車が車道に出たところで、男性スタッフの方は立ち止まりました。背筋が真っ直ぐに伸びた、気持ちの良い立ち姿勢で、指先まですっと伸びた手が、身体の脇に揃っていました。

屋外でもしっかり聞こえる声で、「ありがとうございました」とお声掛けした後、深々とお辞儀をされました。上体を腰から45度ほど傾けた、美しいお辞儀姿勢で、一番深いところで、ピタッと止まっていました。

お辞儀では、相手の様子を感じ、相手と呼吸を合わせることが重要です。相手に意識を合わせていないと、自分だけ先に頭を上げてしまったり、相手がまだそこにいるのに気づいて、慌てて何度も頭を下げてしまう、ぴょこぴょこお辞儀になりがちです。メリハリがなく、落ち着きのない動作からは、丁寧さや思いの深さが感じられないものです。

ところがこの男性スタッフの方は、お辞儀の一番深いところでピタッと止まったまま、身体が動きません。お客さまの様子を伺う素振りも見えませんでした。おそらく、お客さまの車のエンジン音を聞いていたのではないかと思います。その音が近くの交差点を曲がり、だんだんと離れていき、完全に聞こえなくなった頃に、ゆっくりと上体を起こしました。お客さまのお車が過ぎ去った方向に目を遣って、しっかりと確認した後、お店に戻っていかれました。

惹きつけられるように一連の動作に見入った後、「もし私が車を買うとしたら、この方に相談したい」という気持ちが湧いてくるほどでした。深く美しいお辞儀姿勢、丁寧でありながら機敏な動き、お客さまの様子をしっかりキャッチする感受性。こんなお辞儀ができるスタッフがいらっしゃるなら、こちらのお店もきっと素晴らしいお店に違いない。そんな信頼感を抱かせるものだったのです。

その人の人間性からお客さまに対する思い、仕事の仕方までが滲み出る。お辞儀は、そんな力を秘めていることを、改めて感じました。

【井出 元子(いで もとこ) 】
株式会社小宮コンサルタンツ
岩手大学卒業。株式会社リクルート入社後、出版・編集現場のIT化に携わった経験をもとにトレーナーとして転職、Apple認定トレーナー・日本印刷技術協会認定DTPエキスパートとして出版・印刷・音楽業界等でのIT指導や技術セミナーの講師を行なう。移動体通信業界では、販売員の育成や接客コンテントの審査員等を行なう一方、社内インストラクターの育成に当たる。
2008年小宮コンサルタンツ入社、小宮の秘書を務める一方、新人研修やビジネスマナー研修の講師を務める。財団法人、金融機関、医療法人、サービス関連企業にて、新入社員研修、ビジネスマナー研修を実施。秘書技能検定1級。

■ 担当分野 接遇マナー、電話応対、秘書、新人・若手研修
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